新型コロナウイルスの流行下で開かれた芸術祭「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」(主催・東北芸術工科大学)で、生きることや芸術について語った詩人の岩崎航さん。5回連載の3回めは、今年に入って裁判や判決があった相模原事件と、この10年はびこってきた優生思想について語ります。※トークは読みやすく編集を加えた上で、岩崎航さんにも確認してもらっています。【BuzzFeed Japan Medical/岩永直子】
【相模原事件と優生思想】 心に留めておくだけではなくなっている優生思想
――今年に入ってすぐ相模原事件の裁判があり、植松聖被告(死刑囚)に対して死刑判決も出ました。それ以外にも優生思想のような考えがここ10年はびこっています。岩崎さんも2016年に相模原事件が起きた時にかなりショックを受けていましたね。 自分も重度の障害を持ってこうして生きていますし、必要な手助けが得られれば重度の障害を持っていても生きられるということをいろいろなところで話してきました。詩にもそのようなことを詠んでいます。 そういう中で、「そのようにしてまで生きてもらっては困る」というような考え方がこのような衝撃的で露骨な形で表に現れてきてしまった。 考えるだけでなくて、実際に手を下して人を殺してしまうところまで実行してしまった。本当に衝撃でした。 心の中で思っていたり、口に出したりするところからは、一線も二線も壁があります。だんだんエスカレートしてしまって、ああいう恐ろしい事件が起こってしまった。 これまでは、内心そのように思う人がいたとしても、心の中にとどめておく良識が働いていたと思います。 しかし、昨今、国民から選ばれた政治家たちもそれに近いことを言うようになっています。これは酷いのではないかと思ってしまうようなことを言ってしまう。
しかも、「タブーに踏み込んだ」「勇気を持って言っているんだ」などと、もてはやされる傾向があります。 優生思想やそれに近いような内容であっても、賛同する声も多く聞こえてきて、共感する人も見えてきています。 今の世の中、誰もが余裕がありません。 「大変なのはわかるのだけど、支援していくことはできない。重度障害を持っている人たちだけが大変じゃない。あまり支援しているとこっちも潰れてしまうからやっていられないんだ」 そう命の線引きを容認する考えを口にする人も出てきています。それはやはり怖い世の中の動き、現象だなと私は思っています。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース